CD JOURNAL 11月号掲載
インタビュー:周東香里(Kaori Shuto)
■プロフィールについて
・バンド結成のきっかけは?昔からの友達同士なんでしょうか?何年ごろ結成してどういう活動をしてきたのか、まずはバンドのバイオグラフィーを簡単に教えてください。
「俺達は5人とも学生自体からの友達で、俺達より少し年上のダン以外のメンバーは、グラマー・スクール(中学校相当)に入学した11歳の時に出会ってるんだ。今、俺達は20〜21歳だから、友人としてよりも、バンドのメンバーとしての付き合いの方が長い事になるね。」
「13〜14歳くらいに、ジャック、オリー、そして俺と、何人かの友人(そのうち一人は、今ロンドンのRareFmで、プログラミングの統括担当になってるよ)でバンドを始めたんだ。そのバンドは、インディー・ロック・バンドみたいなかんじで、Radioheadや、Jeff Buckleyみたいな曲を書いていたんだけど、結局飽きちゃって、もう少し静かで、優しい音楽がやりたくなったんだ。その頃から、俺達3人は、今のYndi Haldaの楽曲の元となるものを書き始めたんだ。Labfradford、Sigur Ros、Nick Drake、Tortoiseなんかに影響を受けながらね。」
「もちろん、その時点では、まだまだ子供だったし(15~6歳)、まともな楽曲が書けるようになるのは、もっと先の話なんだ。俺達が16〜17歳の時、当時18歳だったダンがバンドに加入してくれて、そこから『enjoy eternal bliss』を書き始める事になったんだ。」
・バンド名を北欧神話からとった理由は? 日本ではエッダ(Edda)ってあまり一般的じゃないけど、イギリスではよく知られているのでしょうか。誰か古代アイスランド語に興味があるの? 神話とかフェアリー・テイルみたいなものへの興味が高そうですが。
「面白い事に、俺達は誰も神話やフェアリー・テイルといったものに興味がないんだ。『Odin’s Raven Magic (Hrafnagaldur Odins)』(オディンズ・ラヴェン・マジック=エッダの神話)の話自体を、信じている訳じゃないけど、俺達はそれよりも、その詩が持っている語学的要素に興味があるんだ。いろいろ考えた中でも、『enjoy eternal bliss』っていう言葉の響きが、俺達の楽曲に一番フィットすると思ったし、『Yndi』『Halda』っていう言葉の流れ、組み合わせが、音、文字、両方ともすごく良くて、自分達のバンド名として、他には考えられなかったんだ。」
「何年か前の話だけど、アイスランドのフィルム・コンポーザー、Hilmar Orn Hilmarssonが、ロンドンでSigur Rosと、詩に音楽をつけたパフォーマンスを行ったんだけど、俺が知っている限りでは、これが神話の世界を超えて、イギリス国内でこういった形で、詩が大衆に発表されたのは初めての事なはずだから、あんまり知られていないんじゃないかな。」
・どういうバンドに影響を受けて、どういう音楽を聴いていましたか? Myspace.comの影響を受けたアーティストにはsigur ros, explosions in the sky, saxon shore, modest mouse, mogwai, mono,? gastr del solなどポスト・ロック系のバンドが多く含まれていますが、いわゆる「シューゲイザー」(so-called shoegaze music)からの影響は?
「残念だけど、今挙げてもらったバンドの多くは、俺達のお気に入りではないんだ。俺達は、ポスト・ロック・バンド達よりも、フォーク・シンガーや、アコースティック・ミュージックに興味があるんだ。Slowdiveや、My Bloody Valentineみたいな、シューゲイザーのアーティスト達の音楽も聴いてるけど、それぐらいかな。俺達が日常的に聴いているのは、Iron & Wine、Sufjan Stevens、Timesboldみたいなアーティスト達だね。」
・曲の長大さや複雑な展開がプログレッシヴ・ロックを思わせる部分もありますが、影響は? Yndi Haldaの音楽にはよくクラシック音楽的な要素を指摘されているけど、実際クラシックにも造詣が深い?
「プログレッシヴ・ロックよりも、クラシック音楽の方が、断然親しみ深いね。ブレンダンは、King Crimsonのファンだし、ジャックは、フロイドのレコードを持ってるみたいだけど、俺達のほとんどは音楽を、高等教育まで受けていて、Schostakovitchや、Goreckiのレコーディングが大好きなんだ。特にダンは、クラシック音楽に多大な影響を受けていて、俺達の中でも唯一、オーケストラに入るための教育を受けているんだ。残りのメンバーが、ロック・バンドの音(ブレンダンは、メタルだったけど)を聴いて育ってきた間、ダンは、いつもオーケストラや、ストリング・カルテットで演奏してきたんだ。結局それが、間違いなく俺達のサウンドには支えとなっているし、特に、彼と俺は『完璧な構成』が大好きだから、俺達が受けてきた音楽での教育を活かして、自分達が弾けない楽器のパートも書き上げる事が出来るんだ。」
・自主制作盤が2位にランクインした、Decoymusic.comってどういうサイトですか? イギリスではどのくらいの知名度でどんな人がチェックしているのでしょう?
「実は、そのリストを作成して、レビューを担当しているジョーダンが、インタビューのオファーをメールでくれるまで、俺自身は、そのサイトを知らなかったんだ。情報の質、周囲からの評価を見ても(特にジョーダンが担当してる部分)、本当に素晴らしいサイトみたいだしね。色んな人達が、Decoyを見て俺達の事を知ってくれた、って言ってくれるし、俺達が思っている以上に、知名度のあるサイトなのかもしれないね。」
・英米日同時デビュー、おめでとうございます。それはどういう経緯で決まったの?
「実は、英米日以外にも、いくつかリリースが決まっているんだ。Avant Garden(台湾)、Pastel Music(韓国)、White Noise(香港)も、今作のリリースが決まったんだ。偶然にも前の質問にあった通り、Burnt Toast Vinyl(USのレーベル)の担当者が、俺達の楽曲をDecoyで聴きつけて、手作りのEPをオーダーしてくれてね。友人伝いに紹介してもらったBig Scary Monsters(UKのレーベル)との契約が決まってからすぐ、USからのオファーが届いたんだ。日本のリリースは、新しく立ち上がったXtal Recordsから、突然メールが舞い込んできて、いつか日本にも行きたいと思ってたし、興奮したよ。」
・ジェームスのサイド・プロジェクトのa lilyはよりエレクトロニカ的な音を出されてますが、インディ・ハルダとはこの先も並行させてゆくんですか? ふたつのプロジェクトをどのように差別化しているのでしょう? ソロ・プロジェクトでの音やアイディアをインディ・ハルダにフィードバックさせることはありますか?
「『enjoy eternal bliss』を出した後に、新しいアルバムに取り掛かりたいところだけど、その前に、もう一枚限定版のEPをリリースしたいと思っているんだ。それによって、今まで使った事のない実験的なサウンド―もっと多くのオーケストラの楽器、アコーディオン、ハーモニカのようなアコースティック楽器、そして質問にもあったエレクトロニカ(A Lilyでの使い方とは完全に異なるけどね)―を試せるしね。」
「2つのプロジェクトの本質的な違いは、A Lilyでは楽曲は全て、俺が書いているんだ。まず、論理的に曲を頭の中に描いて、それからレコーディングに入る。反対に、Yndiでは、それぞれがアイディアをリハーサル・スタジオに持ち寄って、アイディアを動かしたり、入れ替えたりして、楽曲として認識されるまで、延々とプレイされ、変更が加えられていくんだ。A Lilyの曲が、最初から決まった展開で、方向性がしっかりしているのとは対象的にね。だから、Yndiの曲は実験の末、書き上げられると言えるし、A Lilyの曲は、頭の中から形にする翻訳作業だと言えるね。」
■ジャンル(ポスト・ロック)について
・モグワイ以降のポスト・ロック勢のなかでは、Yndi Haldaのサウンドには轟音(loud and layered sound)の割合があまり多くないように感じます。そこにはどんな思惑があるんですか?
「個人的には、俺達は、MogawaiやMonoみたいに、周囲の反応や、批判には、反応せず、ちょっと過剰なくらいに寛大で、リラックスしすぎてるのかもしれないね。曲の中にある轟音よりは、ハーモニーや質感にこだわっているし、『重い』パートは、考え抜いた上で展開に組み込んでいるし、決してピュアなサウンドや、ノイズを意識的に入れてる訳でもないんだ。自分達のサウンドを、本質的に表現する上で、支えにもなっているね。轟音の部分は、盛大にしたいし、それは横柄なサウンドではないんだ。そういう意味では、俺達の狙いは、エモーショナルな感情を、いかに表現できるか、っていう部分にあるね。」
・ヴァイオリンとか鉄琴とかピュアな音の楽器をきれいに重ねてますよね。影響を受けたバンドとして挙げているmogwai、sigur ros、explosions in the skyなど、ポスト・ロック勢のなかで、自分たちのアイデンティティをどう示していきたいですか?
「たくさんの人々が、質問に挙げてもらったバンド達とも、よく比較してくれるけど、曲のスタイルに似ている部分はあっても(長い曲、(ほぼ)インストゥルメンタル、ダイナミックな展開)、表現の部分では違うと思ってる。Yndiは、楽観的で希望を持った青年で、他のバンドよりも喜びを持って曲を書いていると思うんだ。そこが、俺達と、同じ層をリスナーに持っていて、俺達以前に出てきたバンドと距離を置く上で大切だと思っているよ。」
■今回の作品『enjoy eternal bliss』について
・1曲が長い(アルバム収録曲)けど、これは意図的なのですか? いつも曲を作ると長めになる? そこに、資料に書いてあるようなクラシックからの影響があるのでしょうか?
「曲が長くなるのは、意図的になされた決断ではないんだ。俺達が一度のリハーサル・セッションで、ひとつの曲にたくさんのパートを書き上げた結果として出来上がったものだと思っているよ。自分達のピースを『旅する』ように演奏したいし、それは歌詞を付けずにって事なんだけど、自分達が伝えたい感情を表現するには、短い楽曲では難しいと判断したんだ。『楽章』をベースにしたクラシック音楽のスタイルには、もちろん影響を受けているよ。例えば、2曲目の『we flood empty lakes』の構成は、ソナタの様式を参考にしているものだし、それは音楽家が使用しているクラシックの手法と共通しているよね。」
・長い曲を演奏する間、どうやってテンションを保っているの?
「人々が思っているほど、難しい事ではないんだ。自分達では、決して長い曲だと思っていないし、それは、演奏に必要な回数、自分達の楽曲を聞き込むと、客観的な見方を失ってしまうからなんだ。それに、Aメロ―サビ―Aメロのような構成を取っていない事もあって、飽きる事はないからね。特に、俺達は構成を固めすぎないところがあるから、ライブでは、アイ・コンタクトや、ジェスチャーをメンバー間で、互いに交わす事で、曲が変わっていくんだ。」
・演奏してるときはどんなものを思い描いているの?風景とか?
「ミスを犯さないか冷や冷やしているよ!自分達の楽曲を通して、メンバーの誰一人として、意図的に感情を出そうとはしていないし、どんなパート、メンバーの誰であっても、感情的な要素をつなげていく事に集中しているかな。俺にとっては、『dash and blast』の冒頭部分は、厳粛に聴こえるんだけど、それは敢えてそういう風に書き上げているからだし、それは自分達が演奏している時の事を、思い浮かべながら書いた結果なんだ。dめお、他のメンバーにとっては、迷いもなく全く違うものを意味するのかもしれないね。」
・曲作りはどうやって行なわれるのですか?アンサンブルの中で生まれたパーツを繋ぎ合わせてゆく感じ?それとも誰かがつくった長いメロディに肉付けしていく?
「いつも、シンプルなギターのラインに、ハーモニーとメロディーを乗せたアイディアを、俺がバンドに持ち込むんだ。ジャックか、俺がそういった部分を担ってるかな。それから全員で細かいアイディアを詰めて、構築していって、新しいパート、アイディアを、曲の『楽章』として形を成すまで練り上げる。大抵、その作業を続けていくうちに、楽曲が出来上がっていくんだ。遠回しに書いていくのが好きだからね。メンバーが揃うと、自然とそういう流れになってしまうんだけどね。」
・アートワークも自分たちでやってるみたいですけど、ジャケットの風景はあなたたちの音楽を表現してると言っていいですか? ブックレットにも歌詞カードがなくて挿絵がついていますが、言葉よりも絵画的なもので表現したいということでしょうか。あえて言葉にするとあなたたちの音楽はどんな風景?
「とても面白い質問だね!アートワークに描かれている景色のほぼ全ては、俺達が住んでいる小さな村の風景なんだ。イギリスの最東南端にある漁村なんだけど、俺達はこの村を愛しているんだ―起伏に富んだ丘や谷、打ち寄せる波、長く続く日没―こういった環境で音楽を作るのが大好きなんだ。言ってみれば、人々が俺達の楽曲を聴いてくれている間に、俺達が見てきたものが見えるように、自分達が住んでいる場所を、アートワークに残さなきゃいけないと思ったんだ。。音楽以外のアイディアをイメージで表現するっていうのは、面白い提案だね。それは思いつかなかったよ。多分、歌詞がないという事もあって、自然に湧き上がってきたんだと思うよ」
「質問の後半(自分達の音楽を言葉で風景にして現す)の答えは、さっき答えた通り。ブックレットにも載ってる、俺が書いた短い詩も説明の補足になるかもしれないね。実は、隠された慈悲深い力が、この秘密めいた世界を救うっていうストーリーなんだけど、『幸せ』や『純粋さ』が、音楽的にも、感情的にも、メイン・テーマとして楽曲の中枢に据えられていている。つまりこの二つの言葉があれば、十分だと言えるね。」
・今回の作品について「it's the kind of music which could soundtrack a modern day love story as easily as it could a mid-century war. 」とMyspace.comでは表現されていますが、じっさいにある物語にそったサントラのような音楽ということなのですか?もしそうなら、どんなストーリーなのか具体的に教えてください。
「その文章は、Big Scary Monstersのプレスに、添えられていたものなんだ。自分達の意図として、サウンドトラックにしようとは思わなかったし、物語的なテーマを置くつもりもなかったんだけど、よく周りからも映画のサントラのような印象を受けるって言われるね。それを考えると、各曲に一番合ったストーリーを照らし合わせていくと、アルバム全体とは合わなくなってしまうんだけど、どの曲にとっても、それらが大切なのは間違いないね。各曲のテーマとして、幼少期の無邪気さと素朴さが『dash and blast』、少しファンタジーの入った慈悲愛と、慈善的な行動が『we flood empty lakes』、愛情が『a song for starlit beaches』、大災害からの克服が『illuminate my heart, my darling!』に、それぞれ込められているんだ。」
・アルバムは4曲に分かれていますが、舞台の一幕とかクラシックの楽章みたいにそれぞれに小テーマがある? 1曲目に入っている荘厳なコーラスが印象的ですが、これはテーマと関係あるんですか?
「これはさっきの質問で、答えてしまったね。楽曲には小テーマというものが存在すると思っているし、その中でもさらに小さいテーマがあると思うけど、それぞれのテーマが集まっても、ひとつの大きなテーマになるようには、意図されていなかったんだ。もし、このアルバムにテーマを付けるとしたら、前にも答えたけど『幸福』になるね。それと、『荘厳さ』も、好きな言葉だから付け加えたいな。」
■バンド名にも作品タイトルにも用いられている「eternal bliss」という表現について
・音楽における至福(bliss)って何だと思いますか?
「自分お気に入りのレコードにCanの『Tago Mago』があるんだけど、聴いていくうちに、曲が持つリズムが自分の鼓動と、少しずつ同じになっていって、ハーモニーが、呼吸と鼓動に同期していったんだ。音楽における至福って、そういう事だと思うんだ。例えば、息を飲むようなコード・チェンジとか、夢中になるほど美しいハーモニーとかね。Do Make Say Thinkと、The Arcade Fireは、こういった事を達成できている俺のお気に入りのバンドだね。」
・どういうサウンドや曲の展開で至福を表現したい? このアルバムでいうとどのあたりで一番至福を感じる?
「これもいい質問だね!『至福』は、さっきも説明した通り、俺にとっては、『dash and blast』の最後の部分になるかな。あのパートは、俺が作ったんだけど、俺がこのアルバムを通して表現したかった事が、あの一部分にうまく捉えられていると思う。ジャックのお気に入りのパートは、『we flood empty lakes』のグロッケンで、ブレンダンのお気に入りは、このアルバムの最後の部分(とは言っても、これらの部分は全て俺が書いているから、俺のお気に入りを、彼等に言わせてるのかもしれないね。)」
・最後に。漠然とした質問ですが、バンド名にもなっていることなのであなたの意見をおしえてください。―永遠につづく至福ってどこにあると思いますか?
「俺は頭から爪先まで愛に満ちている。俺が至福を見つけられるのは、そこ以外にはないよ。」